| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-194

クマノミ類はなぜ一夫一妻で雄性先熟なのか? シェルター空間の制約と体長差の原理

*服部昭尚(滋賀大・教育・理数情報)

単体の宿主イソギンチャクをシェルターとするクマノミ類では、繁殖はグループ内の最優位2個体に限定され(reproductive skew)、雌の消失後に雄が性転換する。これまで、「浮遊仔魚のシェルターへのランダムな定着」と「その後の移動の困難さ」が「体長に関してランダムなペア形成」をもたらすため、雄性先熟が進化したと考えられてきた。しかし、実際には、クマノミ類の移動力は想定外に高く、先住者はグループへの新規加入個体の受入/排除を選択でき、結果的に仔魚はランダムには定着しない。また、劣位個体は自らの成長を抑制することによって優位個体との闘争を回避し、グループ内に留まって繁殖行列(reproductive queue)を形成している。このため、ランダムなペア形成とは言い難い。彼らがなぜ一夫一妻で雄性先熟なのか十分な説明はない。

本研究では、まず、グループ構成員の体長和がシェルターサイズと相関する点に注目した。シェルターサイズがグループ構成員の体長和を決めると仮定し、順位間の体長差を固定して最適化(Microsoft Excel ソルバー)を行った。計算結果から、体長差が大きいと、最優位個体が大型化してグループサイズが減少することが示された。次に、体長に比例して産卵数が決まると仮定し、様々な体長差を用いて最適化を行うと:1)シェルターサイズが小さく、体長差が大きければ、一夫一妻が有利となる、2)その場合、繁殖可能な個体数は3のこともある、3)体長差が小さいと、一夫多妻が有利であることがわかった。シェルターが不足する環境下において、劣位個体は優位個体と共存するために体長差を増大させたのであろう。その結果として、一夫一妻制と雄性先熟が進化したのではないか。カクレクマノミAmphiprion ocellarisを対象に野外調査を行い、さらに文献データを用いた検証を試みる。


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