| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-196

シロアリ卵の揮発性フェロモン Part 2 ‐卵がワーカーを呼び寄せる‐

*横井智之,日室千尋,松浦健二(岡大院・環境・昆虫生態)

社会性昆虫では、卵の保護と運搬が基本的な社会行動の一つである。シロアリにおいては、女王によって生産される卵は、ワーカーが巣内の複数個所に運搬して、卵塊を形成して世話を行う。ヤマトシロアリReticulitermes speratusは光の届かない閉所に生息するために、ワーカーの眼は退化しており、視覚情報を用いることができない。そのため、卵を知覚する際は、卵の物理的特性を認識する以外に、表面の化学物質であるリゾチームとβ-グルコシダーゼを卵認識フェロモンとして利用していることが知られていたが、最近これに加えて、シロアリ卵の揮発性フェロモンの存在が明らかになった。この発見により、ワーカーが卵を発見する過程において、認識と定位行動に利用されるフェロモン物質がそれぞれ異なっていることが示された。実際に、巣内を再現した状況ではこの揮発性フェロモンがワーカーの運搬行動を誘発させることが示された。

通常、シロアリのワーカーによる卵の保護と運搬は巣内で行われる行動であり、巣外に卵が放置されている状況は、ほとんど起こり得ない。しかしながら、この揮発性フェロモンが巣外からでもワーカーを卵のある場所へと呼び寄せることができる物質であるならば、卵認識フェロモンと揮発性フェロモンを塗布した擬似卵を巣外に設置した場合でも、ワーカーによる運搬行動が強く示されると考えられる。さらに、この実験から実用的なシロアリ駆除技術としても応用できることが期待される。そのため、本研究では野外の状況を人工的に再現して、シロアリの卵認識フェロモンと揮発性フェロモンでコーティングした擬似卵を用い、ワーカーによる巣外から巣内への運搬率を検証することで、その可能性を探る。


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