| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-260

石川県白山地域におけるニホンザル群れの長距離季節移動の3年

*上馬康生,山田孝樹,増田美咲(石川県白山自然保護センター)

ニホンザルの群れのなかには、季節に応じた食物を求めて季節移動を行なうものが知られている。その季節移動をラジオテレメトリー法で明らかにした例は幾つかあるが、報告されているのは調査期間が一年以内など短いのが一般的である。2006年9月から2009年12月までの間、石川県白山地域で発信機装着個体(成獣雌4頭)を継続追跡し、また適時現地に入って目視調査を行なうことで群れの行動を調べたところ、低地から高山帯までの長距離におよぶ季節移動を毎年繰り返していることが明らかとなった。

秋に高標高地から低標高地に移動してきて翌秋に再び戻ってくるまでを1年とすると、秋から翌春の高標高地への移動前までの冬期生息域、春の移動期、6月から秋の低標高地への移動前までの夏期生息域、秋の移動期に分けることができた。春の移動開始時期は3年間で大きな違いはなかったが、秋の移動開始時期は年による違いが大きく、その原因については追跡した群れの夏期生息域での秋の主要な食物であるブナの実の作柄と関係していると考えられた。すなわち凶作年は豊作年と比べると1か月以上早く移動を開始しており、大凶作年は更に早く大豊作年は更に遅くなっている可能性が高かった。春と秋の移動ルートはそれぞれの時期の主要な食物のある場所を通っていると考えられ、春と秋ではルートが異なっていたが、年ごとの変化はみられなかった。夏期生息域はブナ帯上部から亜高山帯で一部高山帯までの範囲にわたっていた。冬期生息域は集落周辺の落葉広葉樹林を中心とするところであり夏期生息域に比べると面積は狭かった。

追跡した群れの周辺には発信機により識別された別の群れがいるが、それらの群れとの年ごとの位置関係の変化からもこの群れの動きについて考察した。


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