| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-298

雌の多回交尾に対抗したナミアゲハの雄の精子注入戦略

*佐々木那由太・渡辺 守(筑波大・院・生命環境)

近年、雄が交尾時に雌へ注入する物質の生産にはコストがかかるので、自らの繁殖成功度を最大にするために、雄は注入物質量を交尾毎に調節していると考えられるようになってきた。チョウ類の場合、雄は交尾時に精包と無核精子、有核精子束を雌へ注入しており、精包の大きさや無核精子の注入数は雌の再交尾不応期間の長さに関与し、有核精子は受精を担っている。これらの物質の生産量と注入量を雌の形質と関係して明らかにするため、雌が多回交尾制のナミアゲハにおいて、雄を様々な雌と交尾させた。すなわち、羽化直後の未交尾雄と羽化翌日に交尾させた雄それぞれに、4〜5日間の休息を与えてから、体サイズやエイジ、交尾歴の異なる様々な雌と交尾させ、注入した精包の重量と各精子の数を計測した。また、交尾終了直後の雄の貯精嚢内に残存していた有核精子束数と無核精子数も計測し、交尾直前までに生産した精子の数も求めている。未交尾雄の場合、注入した精包の重量は雌の形質や雄の体重と無関係だったが、有核精子は体サイズの大きな雌に対して、無核精子は既交尾雌に対して注入数が多かった。雄は交尾相手の形質に対応して、精子の注入数を調節していたといえる。既交尾雌に対して注入した無核精子の数が多かったことから、無核精子が再交尾の抑制だけでなく、受精嚢にすでに存在していた前に交尾した雄の精子を押し込む役割を果たす可能性も考えられた。一方、精包の注入量は、雄の内部生殖器の構造的制約により調節できないことがわかった。既交尾雄の場合、未交尾雄と同様に、精包重量は雌の形質や雄の体重から影響を受けなかったが、無核精子や有核精子束の注入数も雌の形質の影響を受けず、直前までの生産数のみに依存していた。本種の雄は、自らの交尾歴を今後期待される交尾の可能性の指標とし、それが低いときには注入精子数を増加させていると考えられる。


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