| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-040

シラタマホシクサが存続するのはどのような湿地? 愛知県における自生地の環境

*富田啓介(名古屋大・GCOE), 藤原直子(豊橋市自然史博物館)

環境省レッドリスト(2007年版)で絶滅危惧II類に指定されているシラタマホシクサEriocaulon nudicuspeは、愛知県を中心とした東海地方の固有種である。自生地である湧水湿地(丘陵地に多い貧栄養の湧水によって形成された小規模な湿地)は、そのほかの地域固有種や絶滅危惧種のハビタットでもある。2009年に、愛知県内のシラタマホシクサの自生する湧水湿地30地点を踏査して立地・面積・水質・保全状況を把握するとともに、現存個体数の推計を行なった。本発表ではこの結果について、シラタマホシクサの減少率の把握を目的とした2004年〜2005年の調査(藤原・富田,2006)からの変化も含めて報告する。

調査した自生地における水質の中央値はECが38μS/cm、pHが5.6で、一部の自生地を除き本来の貧栄養・弱酸性の環境が保たれていた。また、保全状況をみると、半数程度の自生地が行政機関等に認知され、その一部では立ち入り制限や刈り払いなどの積極的な管理が行われていた。

また、調査した自生地におけるシラタマホシクサの個体数は合計で約19万個体と推計された。隣接県にも複数存在する自生地を含めると、現存総個体数は20万以上と考えられた。これは、環境省レッドデータブック(2000年版)で推計された8千個体を大きく上回る。ただし、個体数はわずかな大規模湿地に支えられていた(上位5地点で13万個体)。また、前回調査時(2004年〜2005年)と比較すると、オーダー単位での個体数の変化があった自生地は28地点中12地点と個体数変動が大きいことが示唆された。また、自生面積が10m2以下という消滅リスクの極度に高い自生地も8個所存在した。以上から、個体数は多くても依然予断を許さない状況にあると判断された。


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