| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-062

野外で巣立ちしたコウノトリの父性解析

*内藤和明,大迫義人(兵庫県立大・自然研), 西海功(科博)

兵庫県北部の豊岡盆地では2005年からコウノトリの再導入が実施されている.野外での繁殖が2007年から始まり,2009年にかけて計5組のつがいが繁殖し計18個体が巣立ちした.コウノトリは社会的一夫一妻の鳥であるが,この中で雄の交代またはつがい外交尾が観察され父性が特定できない幼鳥が2個体あった.そこで本研究では,マイクロサテライト遺伝子座を用いてコウノトリの父性解析を行った.

解析対象としたのは,親およびその候補個体11個体,およびサンプルを採取できた幼鳥15個体である.親個体に関しては放鳥の前に,巣立ち個体に関しては個体識別のための足環を装着する際に採取した血液を用い,各々からDNAを抽出した.近縁種であるシュバシコウでの有効性が確認されれているマイクロサテライト遺伝子座のDNA配列を基に予備実験を行い,最終的に5対のプライマーで解析を行うこととした.PCRにより各遺伝子座のDNA配列を増幅した後,オートシークエンサーを用いて遺伝子型のタイピングを行った.

各遺伝子座における対立遺伝子の数は2から9であった.親子間の遺伝子型の比較を行った結果,父性が不明であった2例のうち,ひとつは,満2歳に満たず繁殖年齢に達していないと考えられていた育ての雄親が遺伝的な親であることが確認された.もう一方では,育ての雄親の兄弟である別の雄が遺伝的な親であることが明らかになった.繁殖行動のモニタリングではつがい外交尾が観察されなかったその他の個体については,親子間の遺伝子型に矛盾は見られなかった.以上の結果より,満1歳での繁殖が可能な雄の存在と,つがい外交尾による受精の成立が,コウノトリの配偶システムにおける新知見となった.


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