| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-070

農業水路における両側回遊種ミゾレヌマエビの生息場所利用

*中田和義(土木研), 傳田正利(土木研), 天野邦彦(国総研), 三輪準二(土木研), 浜野龍夫(徳島大)

演者らの研究から最近,両側回遊種のミゾレヌマエビが農業水路に多数遡上することが示された。しかし,こうした遡上エビは,非灌漑期に農業水路の水涸れが起きると生残できないことが予測される。農業水路に遡上する両側回遊性エビ類の個体群を保全する上では,水路におけるエビ類の生息場所利用様式と農業水利システムの関連性について明らかにする必要がある。本研究では,愛知県豊川流域の計8ヵ所の圃場整備済み農業水路を対象とし,灌漑期(6〜9月)と非灌漑期(10〜5月)にそれぞれ,農業水路におけるミゾレヌマエビの生息場所利用様式について明らかにするための現地調査を実施した。調査では,タモ網を用いて水路内に生息するミゾレヌマエビの定量採集を実施し,また,ミゾレヌマエビの遡上に影響すると考えられる水路の物理環境特性を記録した。

調査地におけるミゾレヌマエビの遡上開始期直後の9月には(遡上期:8〜11月),8水路中7水路でミゾレヌマエビが確認された。捕獲個体数は湧水水路で多かった。しかしながら,水田からの水路への排水が消失する非灌漑期の10月になると,湧水のない水路の多くは水涸れした。また,湧水のある2水路についても,12月までに湧水が消失し水涸れした。これらの水涸れする水路に遡上したミゾレヌマエビの多くは,死亡したと考えられた。一方,湧水が通年浸透することで水涸れしない1水路では,遡上期間中,捕獲個体数は増加し続けた。この湧水水路は,ミゾレヌマエビの繁殖場所としても機能することが明らかとなった。以上の結果から,農業水路を生息場所として利用するミゾレヌマエビの個体群を保全する上では,湧水の保全などによる非灌漑期における保全水域の確保が重要になると考えられた。


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