| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-080

ユビキタスジェノタイピングによる絶滅危惧植物ヤチシャジンの保全

*大竹邦暁(中電技術コン),兼子伸吾(京大院・農),増本育子(中電技術コン),井鷺裕司(京大院・農)

ヤチシャジンAdenophora palustris は、湿原に生育するキキョウ科の多年生草本で、絶滅危惧IA類に指定されている。日本の本州西部及び中国北東部・朝鮮半島に分布するが、国内では過去20年間に自生地の半数が失われたと考えられ、現在、5箇所の生育地に約1,000個体が残存する。各集団の個体数については、栽培個体の再導入が行われている最も大きな集団には約800個体が生育しているが、他の集団は3~100個体を残すのみであり消滅の危機にさらされている。本研究では、ヤチシャジンの生態的・遺伝的な現状に即した保全計画を策定するため、全残存集団に対するマイクロサテライトマーカーによる全個体遺伝子型解析(ユビキタスジェノタイピング)および、再導入が行われている大集団と小集団のうち100個体が生育する1箇所に対する訪花昆虫調査を行った。

遺伝子解析の結果、種子繁殖とクローン繁殖が共に行われている集団とクローン繁殖しか見られない集団があり、集団間で遺伝的多様性が異なっていることが見出された。また、再導入が行われている大集団の中で既存の部分集団と再導入による部分集団との対立遺伝子を比較すると、再導入集団の遺伝的多様性は既存の集団に比べて低く、再導入集団の遺伝的組成は既存の集団と異なることが示唆された。訪花昆虫調査の結果、大集団(400個体が開花)においては9種の訪花昆虫が確認されたのに対し、小集団(4個体が開花)では2種しか確認されなかった。また、ヤチシャジンは雄性先熟であるため、大集団においては、ほぼ全ての花で柱頭が開く前に訪花昆虫によって花粉が持ち去られていたが、小集団においては、ほぼ全ての花が花粉を残したまま枯れていた。したがって、小集団においては、訪花昆虫の訪花が少なく送受粉が十分に行われていない可能性がある。


日本生態学会