| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-081

放野された傷病タヌキの定着過程

*安藤元一(東農大),加藤千晴(神奈川県自然環境保全センター),難波海南子,林亜希子,松平恵理,八木仁美,坂本真希,小川 博(東農大)

傷病獣救護は治癒した動物が放野され、生態系の中に再度組み込まれてはじめて成功したといえるが、放野後の追跡調査が行われた例は少ない。本研究では交通事故や疥癬症などのために神奈川県自然環境保全センターに保護収容され、治癒したタヌキ成獣15頭(オス10頭、メス5頭)を用いた。これら個体には発信機を装着し、2006〜2008年に丹沢山系の山麓地域および相模川水系の河原に放野して、その後の動きを追跡した。各個体を追跡できた平均日数は96日であり、3頭は半年以内に死亡を確認した。オスの3頭は放野後1週間以内に行方不明となり、別の1頭は5ヶ月後に疥癬症で衰弱しているところを再度保護された。最外郭法による行動圏の平均値は放野1ヶ月目ではオス57ha、メス26haであったが、3ヶ月目にはオス17ha、メス11haと雌雄共に縮小し、その後は安定する傾向を示した。昼間にねぐらとして利用した場所を3個体について調べたところ、放野後1ヶ月以内では平均11カ所にも達し、行動圏内にランダムに分布したが、3ヶ月目以降は2〜3カ所に安定した。放野個体の多くは放野後1ヶ月くらいは放野地点を含む範囲にとどまったが、その後は行動圏中心を次第に移動させ、3ヶ月目くらいから平均2.5kmほど離れた定着する傾向を示した。最も長距離移動した1頭のオスは、放野後1ヶ月で9km移動し、3ヶ月目にはさらに6km離れた場所に移動した。移動後の定着場所としては住宅地が好まれ、山中や河原で定着する個体はいなかった。以上のことから、放野個体の生活が安定するには3ヶ月程度を要し、定着場所として住宅地を好むことが知られた。


日本生態学会