| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-092

群集修復の目標にあわせたサンゴ移植種選定の重要性

*向 草世香(JSTさきがけ・長大・琉大),巌佐庸(九大)

近年、衰退が報告されているサンゴ群集を修復する手段として、サンゴ移植が注目されている。しかし、移植によってサンゴ群集本来のダイナミクスがどのように変化するかの検討は十分になされていない。群集をどのように修復するのか、そのためにはどのような種を、どれだけ、どこに移植すれば良いのか、サンゴ群集のダイナミクスにもとづいて考慮する必要がある。

本研究では、2つの生息地が浮遊幼生を通じて交流するメタ個体群モデルを構築し、移植がサンゴ群集に及ぼす影響を調べた。各生息地のダイナミクスは生息空間を巡る競争を考慮し、成長と幼生加入が空面積に依存すると仮定した。沖縄地方のサンゴ群集を代表するミドリイシ、ハナヤサイサンゴ、ハマサンゴ、キクメイシの4属を想定して数値計算を行った。

群集修復の目標を(1)サンゴ被度の回復とした場合、成長の早いミドリイシやハナヤサイサンゴの移植が望ましい。しかし(2)メタ個体群の種多様性は、幼生保育型のハナヤサイサンゴや成長の遅いキクメイシの移植では高くなるが、ミドリイシの移植では著しく低くなる。また(3)1998年の大規模サンゴ白化以降沖縄本島周辺での局所絶滅が懸念されているハナヤサイサンゴの回復は、それ自体の移植が当然有効である一方、ミドリイシやハマサンゴの移植によってその自然回復が妨げられることが示唆された。

これらの結果から、群集修復の目標によって、移植に適したサンゴは異なることが明らかとなった。移植作業を始める前に、どのような修復目標を掲げるかを十分議論し、それに応じた移植種を選定する必要がある。


日本生態学会