| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-113

絶滅危惧植物ハナシノブ個体群の生態特性が繁殖成功と遺伝的多様性に与える影響

*横川昌史(京大院・農),安部哲人(森林総研九州),井鷺裕司(京大院・農)

ハナシノブ Polemonium kiushianum は、九州地方に固有の草原性多年草である。現存する個体数は推定400個体で、絶滅危惧IA類に指定されており、早急な保全策が必要とされている。個体数が著しく減少した絶滅危惧種の場合、生態的・遺伝的特徴を明らかにした上で保全計画を決定する必要がある。本研究では、ハナシノブの生態的・遺伝的特徴を明らかにするため、九州地方の阿蘇山系に残存する主要な野生4集団(採草地2集団、植林地2集団)を対象に、生育地の光環境・訪花昆虫相・結果率の調査とマイクロサテライトマーカーによる遺伝解析を行った。

調査の結果、採草地は明るく個体群の開花密度が高い一方で、植林地は暗く個体群の開花密度が低かった。ハナシノブの主な訪花昆虫は、小型ハナバチ類・マルハナバチ類・ハナアブ類に属する昆虫で、最も訪花頻度が大きかったのは小型ハナバチ類であった。訪花頻度は採草地個体群で大きく、植林地個体群で小さい傾向にあった。また、結果率は採草地個体群で大きく、植林地個体群で小さい傾向にあった。訪花頻度・生育地の明るさが結果率に与える影響を一般化線形混合モデルとAICによるモデル選択を用いて解析した結果、ハナシノブの結果率は訪花昆虫の受粉によって制限されているのではなく、光資源によって制限されている可能性が示唆された。一方で、遺伝的多様性(ヘテロ接合度、アレリックリッチネス)については、集団間で差はなく、集団間の繁殖成功度の違いは、個体群の遺伝的多様性に反映されていないことが示唆された。


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