| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-123

ブナの集団内遺伝的多様性の低下が不健全堅果生産性に及ぼす効果

花岡創(岐阜大・応生), 小谷二郎(石川林試), 向井譲(岐阜大・応生)

風媒植物の種子生産性は量的な花粉制限(空中花粉密度が低いことによる受粉の失敗)や質的な花粉制限(遺伝的影響による受精失敗)に影響される。多くの研究が種子の生産性に対する個体密度の効果や自家不和合性の影響について報告してきた一方で、近交弱勢の影響について実証的に示した例は少ない。本研究で供試種としたブナでは過去に人工交雑実験が行われ、強い自家不和合性を示すこと、両親間の遺伝的相同性とシイナ堅果の生産率の間には正の相関関係があったことなどから近交弱勢を示すことなどが個体レベルで確認されてきた。本研究では、個体密度を考慮した上で、不健全(シイナ・途中死)堅果生産性に対する遺伝的多様性の効果を集団レベルで解析することを目的とした。

サイズの異なる5集団を対象に、不健全堅果の生産性に対するマイクロサテライト6遺伝子座で測定した集団内遺伝的多様性(Allelic richness, FIS)と個体密度の効果を一般化線形混合モデルで解析した。その結果、Allelic richnessと個体密度の有意な効果が検出された。また、AICによるモデル選択では、変数としてAllelic richnessと個体密度の両方を入れたモデル(AIC: 26.13)、Allelic richnessのみのモデル(AIC: 29.76)、個体密度のみのモデル(AIC: 31.74)の順でモデルが採択された。これらの結果から、不健全堅果の生産性には個体密度と対立遺伝子の多様性の両方が影響することが示唆された。また、人工交雑により個体レベルで検出されてきた近交弱勢の影響は、集団レベルにも適用できると考えられる。ブナ林の健全堅果生産性の維持には個体数(密度)の保全と同時に、遺伝的多様性の保全にも留意すべきであろう。


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