| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-196

カワウコロニーはため池を過栄養にしたか?

*中村雅子(鳥取大院・連合農),矢部 徹(国立環境研究所),石井裕一(国立環境研究所),木戸健一朗(鳥取大院・連合農),相崎守弘(島根大・生物資源)

カワウ(Phalacrocorax carbo)は大型の魚食性鳥類で,水辺の森林に集団でネグラをとり樹上営巣を行い繁殖する。湖畔林に集団繁殖地(コロニー)が存在する水域では,カワウ排泄物が大量に水域に流入していることが考えられ,カワウコロニーの存在が水質悪化を招くことが懸念されている。そこで,湖畔林のカワウコロニーの存在がため池の水質に及ぼす影響について考察した。まずカワウコロニーの存否とため池の水質,次にカワウ個体数変化とため池の水質の経月変化の関係を調査した。

カワウコロニーが存在する山田大沼上沼(埼玉県滑川市)とカワウコロニーが存在しない周辺のため池の水質を比較したところ,カワウコロニーの存在した池沼は窒素,リン,TOC,クロロフィルa,SS,COD濃度のいずれも非常に高く,過栄養状態であった。

コロニー内のカワウ個体数が増加する4月から10月の繁殖期には池のN/P比が下がり,低N/P比であるカワウ排泄物の流入の影響が示唆された。リンおよびTOCは主に懸濁態画分の濃度が高く,窒素は懸濁態に加え溶存態画分も高濃度であった。コロニー内のカワウ個体数と山田大沼上沼の水質の経月変化との間に,強い相関関係は認められなかった(ピアソン相関係数;r=-0.009〜0.57)。カワウの影響は認められるが,個体数と水質の変化に強い相関関係が認められないことは,カワウ排泄物の池への直接流入の他に,排泄物が森林内を通り降雨によって流入するという間接流入に起因するものと考察した。

カワウコロニーの存在はため池のような小規模な池沼において,過栄養状態やN/P比の低下をはじめとする水質への大きな影響を与えることが示唆された。


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