| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-198

モンゴルにおける牧民知識と生態学的知見の統合による放牧地管理

*柿沼薫(東大・農), 佐々木雄大(東北大・理), 岡安智生(東大・農),ジャムスランウンダルマー(モンゴル農大), 大黒俊哉, 武内和彦(東大・農)

牧民知識は地域に密着した情報を提供するため、生態学的知見と組み合わせることで効果的な放牧地管理へ貢献することが期待されている。近年放牧圧の増加が問題となっているモンゴルでは、放牧傾度に沿った植生の閾値的変化が観察されている。閾値的変化は人間活動と密接に結びついて起るにも関わらず、変化に対する牧民の解釈は明らかにされていない。地域にとって分かりやすい生態学的情報の提供をしていく上でも、牧民の解釈を理解しておく必要がある。本研究では、植生の閾値的変化に対し牧民はどのような解釈をしているのかを植生調査と聞き取り調査によって明らかにした。

調査サイトは、それぞれモンゴル国のステップと砂漠ステップ地域に位置する。水場または冬営地からの放牧傾度に沿って、調査プロットを設置した。各プロットで出現植物種、被度を記録した。さらに、各プロットにおいて放牧利用の観点からの状態評価とその理由を牧民から聞き取った。

両サイトにおいて、植生は放牧傾度に沿って閾値的に変化した。しかし、ステップ地域の牧民は閾値を越えたプロットも利用可能な状態にあると判断し、放牧傾度に沿った状態評価に有意な違いはみられなかった。閾値的変化を越えたプロットで、植被率が高いことが評価の理由としてあげられていた。一方、砂漠ステップ地域の牧民は、閾値を越えたプロットの状態を低く評価した。その理由として、牧草としての価値が低いPeganum nigellastrumが閾値を越えたプロットで多く出現したことがあげられていた。結果をふまえて、放牧地管理へ向けた植生の閾値的変化と牧民知識の応用について議論していきたい。


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