| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-249

ヒラタクワガタにおける地域間雑種の形成と大顎の形状

*所諭史(茨城大・院・教育),五箇公一(国立環境研),立田晴記(琉球大・農),鈴木一隆(国立環境研),山根爽一(茨城大・教育)

ヒラタクワガタDorcus titanusは、アジアに広く分布するクワガタムシ科の昆虫である。ヒラタクワガタは、ペット用の昆虫として人気が高く、海外から生体のまま大量に輸入されている。以前は植物防疫法により、甲虫類の輸入に制限がかけられていた。しかし、1999年に規制が緩和され、ヒラタクワガタを含む様々な甲虫の輸入が解禁された。結果として、アジア各地のヒラタクワガタが日本国内に流通するようになった。ヒラタクワガタは産地間で著しいミトコンドリアDNA変異を示し、オスにおける大顎形状も地理的変異に富んでいる。しかし、地域亜種間で容易に雑種を形成することが室内実験において報告されており、飼育個体が野外に逃亡した場合、遺伝的攪乱を含む様々な生態学的影響が生じると予測される。

そこで本研究では、遺伝的攪乱が生じるリスク地域を検討するため、アジア各地のヒラタクワガタ個体を用いて交雑実験を行った。また、交雑後に生じる形態形質への影響を評価するため、雑種および両親系統のオスにおける大顎形状を、楕円フーリエ解析および薄板スプライン法を用いて比較し、その遺伝的な基盤について調査を行った。その結果、ヒラタクワガタの地域個体群間には交尾前生殖隔離が働いていないこと、オスにおける大顎形状が量的遺伝形質であることが示された。本研究で使用した楕円フーリエ解析や薄板スプライン法などの幾何学的形態測定学に、分子遺伝解析および生態的調査を合わせて用いることで、野外個体群における遺伝的および形態的な変化を詳細にモニタリングすることが可能となり、浸透交雑現象に関する重要な具体的データを得ることができると期待される。


日本生態学会