| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-308

日本の森林土壌の炭素循環における溶存有機炭素の役割

*藤井一至(京大院・地球環境), 早川智恵(京大院・農),Patrick van Hees(Orebro大), 舟川晋也(京大院・地球環境), 小崎隆(首都大院・都市環境)

森林生態系において、土壌へ供給された有機物は、可溶化によって溶存有機物(DOM)となり、無機化、下方浸透、蓄積(腐植化)する。DOMには、単糖、低分子有機酸などの低分子DOMと腐植物質など高分子DOMが含まれ、大きく異なる代謝回転速度を有する。本研究では、現場における個々のプールおよびフラックスの定量化によって、DOMの土壌の炭素循環における役割を明らかにすることを目的とした。

長野県八ヶ岳ミズナラ林下の黒ぼく土、京都府丹後半島ブナ林下のポドゾル性土、京都市シイ林下の褐色森林土において、DOMのプール・フラックスを測定した。現場の土壌溶液を抽出し、単糖および低分子有機酸濃度を測定するとともに、14Cを標識した単糖、低分子有機酸の無機化実験を行い、低分子DOMの無機化速度を求めた。一方、ライシメーターを用いて土壌溶液を採取し、浸透水量との積としてDOM(主に高分子DOM)の下方浸透量を測定した。

低分子DOMは平均滞留時間が短く(0.1-31.1 h)、土壌溶液中DOMの2-20%に過ぎないが、その無機化速度(3030-6748 kg C ha-1 yr-1)は現場の微生物呼吸速度に匹敵する。低分子DOMは、急速な生産・消費によって微生物呼吸の主要な基質となることが示された。一方、高分子DOMは平均滞留時間が長く、降雨に伴い下方浸透する。DOC流出量は微生物呼吸に対して極めて小さいものの、林床からのDOC下方浸透量(53-344 kg C ha-1 yr-1)はリターフォール量の2-16 %に相当し、鉱質土壌への炭素の給源として重要となることが示された。低分子・高分子DOMは、炭素循環において異なる役割を果たしていることが定量的に示された。


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