| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S03-2

珪藻における表現型可塑性の人為選抜実験系の構築

○城川祐香・若本祐一・嶋田正和 (東大・総合文化・広域)

発生過程でみられる表現型可塑性は、環境に適応した新規な形態をつくり出すのに重要とされる(Kirshner and Gerhart 2005)。その環境変動を受けての発生経路の変更は、最終的には個体内の単一細胞の環境シグナル応答に帰結する。よって一細胞レベルでの細胞形態形成の変化、細胞の形質ごとの個体群動態の変化を理解することは、普遍的な理解を与えてくれるはずである。細胞レベルでの表現型可塑性を検証する材料として、珪酸質の殻をもつ単細胞藻類である珪藻を用いた。中でも世界中に幅広く出現する広塩性中心珪藻Cyclotella meneghinianaの、有基突起と呼ばれる粘液糸を放出する殻器官の数に着目した。有基突起からの粘液糸は、細胞集団形成やそれによる生存率の上昇、沈降速度の増加といった生態的に重要な役割が知られている。

本講演では、海水濃度変化に対して有基突起数を多くする表現型可塑性、そして複数産地から確立したクローン株間の反応基準の違いをご紹介する。また上述の結果である集団の有基突起数の多様性が、一細胞ごとのどのような振る舞いにより創出されるかを調べるため、細胞ごとに世代を特定した有基突起数の関係に着目した。その結果、海水濃度変化の直後の分裂で有基突起数を変化させる迅速な適応がみられたことに加え、同一環境下での表現型ゆらぎを確認した。

本種を含めた有基突起をもつThalassiosira目は淡水―海水間の移入を通して複数回の種分化を繰り返していることが最近の研究で明らかになっている。そこで本種の海水濃度変化への適応を通した進化可能性を検証するため現在進行している実験である、表現型可塑性、表現型ゆらぎと世代間の継承の存在下での有基突起が多い個体の人為選抜についてご紹介したい。


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