| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S12-4

陸海連環環境が作りだすノロウイルスと人間の関係

真砂佳史・大村達夫(東北大・院・工)

ヒトノロウイルスはヒトに特異的に感染するウイルスであり,ヒトの体外では増殖できない。したがって,ノロウイルスが種を存続させるには,感染者から排出されたウイルスが何らかの手段で再びヒトに摂取される循環経路が成立している必要がある。都市域での重要なノロウイルス循環経路として,ノロウイルスで汚染された下水が水環境(河川や海洋)に放出され,それを直接あるいは間接的に曝露することで感染が拡大する経路が考えられている。

汚染された水と直接接触する経路には,ノロウイルスで汚染された水を浄水水源として利用することや,汚染された水域での水浴(海水浴等)が考えられる。しかし水道水中のノロウイルス遺伝子濃度は非常に低く,また塩素処理による不活化も期待できるため,感染を引き起こすのに十分なウイルス粒子を一度に摂取するのはほぼ不可能である。また水浴による曝露は,ノロウイルス感染症の報告数が冬に多く夏にはほとんどないことを考えるとその影響は無視できるであろう。汚染された水に間接的に曝露する経路としては,その水域で養殖された水産物を摂取することが考えられる。実際に,養殖された二枚貝からノロウイルスを含む様々な病原微生物が検出されている。さらに,ノロウイルス患者数が増える時期と生牡蠣の消費時期が重なっていることから牡蠣の生食がノロウイルス感染症拡大に関係していると指摘されているが,その寄与の大きさは明らかになっていない。こういった水環境を介したウイルス感染症拡大を防止するには,都市域で発生したノロウイルスが集積する下水処理場で効率的にウイルスを除去・不活化することが重要である。ノロウイルス除去・不活化のため様々な下水処理技術が開発されており,今後下水道の整備や高度処理の導入によりノロウイルス感染症の削減が期待できる。


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