| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S15-4

ランドスケープフェノロジーの生態的重要性

工藤岳(北大)

地域生態系を構成する植物群集には、それぞれ特有の開花フェノロジー構造がある。また、花を利用する昆虫等の動物群集の多くは、植物群集間を移動して資源を利用している。従って、送粉系を巡る生物間相互作用は、景観スケールに及んで作用しているはずである。生物間相互作用を評価するには、生物個体群の適応度評価に帰結する必要がある。景観スケールの開花フェノロジー構造が植物個体群の適応度に及ぼす影響は、以下のように考えられる。(1) 植物個体群間の開花フェノロジー変異は花粉散布を介しての遺伝子流動に作用し、種の分布域内の空間スケールにメタ個体群構造を形成する。(2) ポリネーターの質的量的季節変動に対して、送粉成功、種子生産、他殖率などは個体群間で変動する。(3) ポリネーターを共有する植物種間にはポリネーター獲得競争やポリネーターの種間移動に伴う干渉作用などの相互作用が存在し、それは植物群集内に留まらず、隣接する群集間や生態系間でも存在する可能性がある。これらの生物間相互作用の時空間変動は、地域個体群に繁殖性質の進化、個体群変動、交雑帯の形成などをもたらす。このプロセスを、いくつかの具体例を交えて解説する。さらに、景観スケールの開花フェノロジー構造は、(4) ポリネーターの資源利用パタンと個体群動態にも作用する。ポリネーターの生活史特性と景観スケールの開花フェノロジー構造の対応により、花を利用するマルハナバチなどの個体群動態に植物の開花パタンがどのように関係するのかを理解できる。このような研究アプローチは、生態系のキーストーンとなる植物種個体群の抽出を可能にし、生態系構造と機能の関連性の解明につながる。フェノロジー研究の景観スケールの導入により期待される研究展望についても紹介する。


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