| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S16-6

NPOが主体となった「田んぼの生きもの調査」の現状とその課題

*嶺田拓也(農研機構),原耕造(BASC)

近年,NPOが主催し,特に農村地域や農業者を対象とした生物調査(以下,田んぼの生きもの調査)が各地で盛んに行われるようになった。環境に関心を持つ市民だけでなく地域の農業者も参加する「田んぼの生きもの調査」では,農業者にとって農村内の気付かざる生物資源に対する価値を市民と共有する機会となるだけでなく,農村内に生息する生物やその生息環境について改めて学ぶことによって,豊かな自然環境とのやりとりを再生する契機としても重要である。

本報告では,NPOの協力のもとに,農業者主体の調査活動を全国に先駆けて実施した福岡県の「農の恵み」事業の経緯と残された課題について紹介するとともに,「田んぼの生きもの調査」を通じて,広く市民に対する田んぼ直接支払いシステムの普及を視野に入れて活動しているNPO生物多様性農業支援センター(BASC)の取り組みを中心に現在,全国で展開されている市民参加型の「田んぼの生きもの調査」について報告する。

NPO主導型の「田んぼの生きもの調査」では,生きものや環境に対する「発見」や「気付き」のプログラムを導入部として採用する場面が多いが,その後は,生きものや環境意識に対する啓発を続けたり,生物目録の作成を目指したり,また,生物生息状況と環境や営農条件との関係の解析を試みたりなど,さまざまな目的が未整理のまま活動が展開されることが多い。一般の生物モニタリングでは,それぞれの目的によって調査内容や参加者に要求される識別能力(同定能力)が異なるため,目的や参加者属性に応じた調査プログラムの整備・提供が進んでいる。しかし,BASCの取り組みに代表されるように,農業者や市民の参加を促す「田んぼの生きもの調査」の多くは,持続的な生産システムの構築に向けた新たな意識の醸成を前提としており,他のモニタリングシステムと異なる体系化やそのステップの提案が必要であろう。


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