| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S16-7

科学的リテラシーと暮らし感覚を兼備した集落生物多様性評価の共通基盤に向けて

*日鷹一雅(愛媛大・農),西田貴明(三菱UFJ)

わが国をはじめアジア諸国の多く国々では、里地の生態系の社会的構成単位は小農をベースにした「集落」単位で機能してきた。生態学の用語を用いるならば、集落はmeta-populationであり、meta-communityと準えることもできるであろう。たとえば、私たち研究者が生物多様性を調査研究する場合に、たとえ昆虫や鳥や草花を対象にしていたとしても、お世話になる農山漁村の集落の中で認知、コンセンサスを得なければ思うように研究が進められないことからも、日常伺える事である。わが国の集落の密度分布はこの50年間で大きく変容し、小さな集落の均等分布から一極集中型の分布様式に変化しつつあり、集落機能の基盤の上に存立する二次的自然の生物多様性も大きく変容し危機的な状況が国家的課題になっている。ここでは、本集会の主題、農山漁村の生物多様性をモニタリングし、その構造や機能を評価し、保全活動に結びつけて行くにはどうしたらいいのか?について議論する。とりわけ、科学的リテラシーと暮らし感覚(livelihood)という、内と外の視点から、集落ベースでの生物多様性評価の方向性について考察したいと考えている。まず科学的リテラシー面から、生物多様性をモニタリングしようとするならば、適切な調査法、種同定、データ集計、予測性につながる分析に基づく評価が重要であり、科学者やその経験者らが集落のよき支援者となり、例えばパラタクソノミストなどのような方策が肝要である(日鷹 2009)。また集落の暮らし感覚抜きで生物多様性の科学を投入しても、集落機能と保全活動は実際の現場では結びつかないのは、NRMやagro-biodiversity関連の近年の世界的な潮流である(Poundら 2003)。日本やアジア諸国の事例を交えながら、生物多様性評価における科学的リテラシーと暮らし感覚の創発に向けた共通基盤について論ずる。


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