| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T01-3

上流と下流とのつながり:流下過程における栄養塩動態

*谷尾 陽一(京大農),大手 信人(東大農),福島 慶太郎(京大フィールド研)

河川は陸域から水を介して窒素やリンといった栄養塩を集積し、下流の生態系へと運ぶただの通路ではない。河川内を栄養塩が流下して行く過程で、Nutrient spiralingと表現される河川生態系独自の吸収−生成サイクルに栄養塩が取り込まれることによって、下流へと運ばれる栄養塩量がコントロールされているからである。

特に山地上流部の河川は、欧米では活発な栄養塩の吸収の場として注目され多くの研究が行われている。しかしながら、日本では山地河川内における栄養塩動態に着目した研究はこれまでほとんど行われていない。そこで演者らは原位置栄養塩添加実験を用いて、滋賀県南部の山地河川で栄養塩の吸収・生成の特性を明らかにすることを試みた。添加実験では、山地河川の源流から下流にかけて100m程度の調査区間を3区間設定し、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウムおよびリン酸二水素カリウムの混合溶液を調査区間の上端からポンプを使って一定速度で注入した。そして、調査区間内における塩化物イオン、硝酸イオン、リン酸イオンの濃度変化を測定し、河川内の栄養塩除去速度を求めた。

調査の結果、流下過程で窒素やリンが河川内から除去されることを確認しただけでなく、除去する速度が流量や河川内の水理構造といった要因により規定されることがわかった。例えば、河川内に淀みや河床堆積物などTransient Storage Zoneと称される空間の占める割合が大きな河川ほど、リンの除去速度が大きくなることを明らかにした。これは河川内でのリンの除去が河床堆積物などへの吸着によって主に行われていることを示している。


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