| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T06-3

アリ植物をめぐる生物間相互作用の起源と多様化

*上田昇平(信大・理), Swee-Peck Quek(ハーバード大・FASセンター), 大久保忠浩(京大院・人環), 市岡孝朗(京大院・人環), 市野隆雄(信大・理)

東南アジア熱帯雨林のアリ植物オオバギ属は,アリ(シリアゲアリ属),カイガラムシ(ヒラタカタカイガラムシ属)およびシジミチョウ(ムラサキシジミ属)と緊密な共生・寄生関係をむすんでいる.これらの共生・寄生者はオオバギに対し形態的・行動的に特殊化しており,寄主との共進化が指摘されている.4者系のうち,オオバギとアリに関しては分子系統樹を比較した先行研究が行われており,両者は約2000万年の間,共生関係を維持し,共多様化してきたことが明らかになっていた.本講演では,オオバギーアリ共生系とそれに適応した共生者(カイガラムシ)・寄生者(シジミチョウ)の起源と多様化のプロセスについて述べる.カイガラムシとシジミチョウは,オオバギ−アリと同時に共生・寄生関係を手に入れ,共多様化してきたのだろうか(共多様化モデル),それとも,すでに多様化したオオバギーアリ共生系に後から参入し、寄主転換しながら多様化してきたのだろうか(後乗り・放散モデル).本研究では,東南アジア全域から採集されたカイガラムシとシジミチョウの分子系統樹を作成し、両者がいつオオバギーアリ共生系に参入したのか(起源年代)を検証した.結果として,カイガラムシは約800万年前に,シジミチョウは約200万年前にオオバギーアリ共生系に参入したことが明らかになった.つまり,カイガラムシとシジミチョウには「後乗り・放散モデル」があてはまることになる.この結果は,4者以上からなる共生・寄生系の起源が必ずしも一致せず,逐次的に共生者の参入が起こる場合があり,生物群によって多様性のプロセスが異なることを示している.


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