| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T10-4

熱帯降雨林土壌における微生物活性のリン律速

喜多智(京大・農)

森林生態系において窒素(N)やリン(P)は不足しがちな栄養塩であり、しばしば森林の生産や分解を制限する要因となる。特にPは、風化の進んだ熱帯林生態系において制限要因となると考えられている。生産者である樹木のP制限は施肥実験により証明されているが、主要な分解者である微生物の活性がPに律速されているかどうかは不明である。そこで本研究では、熱帯林土壌分解系における微生物活性はP律速かどうか?を明らかにするために、野外および室内実験によって、熱帯土壌に異なる基質(N、P)を添加し微生物の活性や量の変化を調べた。

ボルネオ島山地熱帯林土壌について、野外での施肥実験を行ない、低地熱帯林土壌については、有機物層(O層)と鉱物層(A層)に分けてサンプルを採取し室内培養実験を行った。野外および室内において、十分な量のNおよびPを土壌に添加し、経時的に野外培養では土壌呼吸速度、室内培養では土壌呼吸速度、N無機化速度、微生物バイオマス濃度を調べた。

その結果、野外培養では、P施肥後数十分間で土壌呼吸速度が増加した。室内実験においても、O層ではP添加により土壌呼吸速度が増加したことから、野外実験の結果も、O層の特性が強く影響していたようだ。一方、A層ではN添加で土壌呼吸速度が増加した。Pを添加すると微生物が呼吸(活性)よりも微生物バイオマス(量)を増加させる傾向があり、Nの不動化も増加したことから、A層においてPが微生物の律速要因となることが推察された。室内実験において、土壌呼吸速度と微生物バイオマスには逆方向の応答が見られ、微生物の活性(呼吸)と増殖(微生物バイオマス)にトレードオフの可能性があることが示唆された。微生物バイオマスは一定幅のC:N:Pを持つため、C(とN)に富む有機物層と無機態Pの吸着能の高い鉱物層では、異なる栄養塩が有機物分解の律速要因になることが推察された。


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