| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T11-3

伊豆諸島産アカネズミにおけるクルミ食の島嶼間変異

武智怜奈(首都大)

伊豆諸島では、アカネズミは大島、新島、式根島、神津島、三宅島に生息している。本研究では、伊豆諸島の集団の行動的特性を明らかにするため、本州(房総半島、東京都高尾、伊豆半島、静岡県掛川)および伊豆諸島(大島、新島、神津島、三宅島)の8集団において、オニグルミ種子に対する採食行動の比較を行った。オニグルミのない調査区を設け、そこからアカネズミを捕獲し、捕獲した日から毎日種子を1個ずつ与え、14日間連続して観察した。その結果、本州ではおよそ半数の個体がクルミを採食したのに対し、伊豆諸島ではクルミの採食個体の割合は神津島(65.9%)、伊豆大島(25.8%)、三宅島(11.5%)、新島(8.1%)の順に低くなった。伊豆諸島には本来オニグルミが分布していないが、その採食率には顕著な島嶼間変異が認められた。

一方で、伊豆諸島産アカネズミの遺伝的特性を明らかにするため、これらの8集団に関して集団遺伝学的解析を行った。各調査地より13〜69頭を捕獲し、皮膚の一部からミトコンドリアDNAのD-loop領域(約300塩基対)を解読し、比較した。その結果、各調査地で固有のハプロタイプが得られ、これらのハプロタイプの系統樹を作成すると、本州側の4地点で得られたアカネズミでは、よく混ざり合った集団が形成されており、神津島の個体も、この本州側の集団とほとんど区別できないことが示された。これに対し、三宅島と新島では、他と区別できるそれぞれに独自のクラスターを形成し、大島でも固有のクラスターを形成した。以上より、伊豆諸島のアカネズミに関しては、移入のイベントは各島に独自で起こっており、新島と三宅島では最も古い時代に、大島が次に古く、神津島には最近になって移入したことが推測された。このように、本州の集団から隔離された年代が古いほど、オニグルミの採食率が低くなっている傾向が認められた。


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