| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T12-1

異なる環境を利用するカワウの繁殖成功

*新妻靖章(名城大),井上裕紀子(北大院水産),藤井英紀(名大院環境)

カワウはコロニー間でふ化日のばらつきが大きく,ふ化日の頻度分布にピークのあるコロニーもあればないコロニーもある.一般に,海鳥は最も栄養を必要とする育雛期に餌環境の良い時期が同調するように,繁殖開始時期を調節していると考えられている.カワウも,ふ化時期を餌環境が良い時期にあわせており,それが繁殖成績を向上させているかもしれない.一方で,鳥類のふ化時期には,育雛期の餌以外にも,繁殖開始前の餌,被捕食圧,コロニーサイズ,コロニーの成立期間,人によるかく乱,餌等の要因が関連していることが報告されているが,カワウのふ化時期に関してこれらの要因を同時に調べている知見はない.本研究では,カワウの巣立ち率に,ふ化時期が影響しているか調べるとともに,ふ化時期を決定する要因を検討した.

中部地区の5つのカワウコロニーにおいて,2006―2009年に直接観察によってふ化日,ブルードサイズ,巣立ち数を得,吐き戻した餌を集めてコロニー毎の食性の詳細を得た.また,近畿中部地区の10コロニーにおいて2009年に卵および雛の血液を採集し,安定同位体比分析を行った.直接観察よって,コロニーサイズと雛の成長度合いを記録した.

カワウは,沿岸周辺のコロニーでは,沿岸・汽水域の魚類を,内陸部のコロニーでは河川の魚類を捕食していた.カワウの巣立ち率を,ふ化日を前・中・後期の三期間に分けて比較したところ,季節間で巣立ち率が下がるコロニーがあった.これより,カワウは繁殖開始時期を育雛期と餌の良い時期が同調するように調節しているとは言えなかった.


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