| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T13-6

研究者は「なぜ」・「どうやって」地域に入るのか? 〜「関わり」からみる保全研究・活動〜

富田涼都(東大・院・農学生命)

保全活動が、地域社会から「なぜ」行うのか・「だれが」行うのかと問われる場面は少なくない。この問いの背景には、保全活動や研究者は往々にして「生物多様性の保全」のような目的を掲げて合目的に現場に入るのに対し、地域社会は必ずしもその目的を共有するわけではなく「保全」も数ある選択肢のひとつに過ぎない、という目的のズレが存在している。このズレは、しばしば人間同士の齟齬となって活動を頓挫させたりする結果をもたらす。そのため、従来この目的のズレは科学的知見の「啓蒙」で克服すべき対象として扱われることが多かった。

しかし、「関わり」という視点から水田に関わる保全研究や活動をみると、この齟齬の問題は「水辺と人の関わり」と水辺を前にした「人と人の関わり(地域社会と研究者など)」のふたつの「関わり」が課題になっていることがわかる。そのため、現場における保全を持続的に実現するためには、このふたつの「関わり」の望ましいかたちを考え、そのための方策を考えなくてはならないだろう。

本報告では、霞ヶ浦やアザメの瀬などにおける自然再生事業の社会調査による事例研究をもとに、この2つの「関わり」の問題を考えたい。そこで、水辺の環境そのものの先に、より根本的な問題として「水辺と人の関わり」があることと、望ましい「水辺と人の関わり」を実現するために多様な主体を前提とした「人と人の関わり」の構築を考えなくてはならないことを明らかにする。近年取り上げられることの多い保全への参加・協働の姿もそこから考える必要があるだろう。それは、今後の保全研究や活動が「どうやって」という技術論と同様かそれ以上に、「なぜ」/「だれが」保全を行うのか、という問題に深く向き合わざるを得ないことを示しているのではないだろうか。


日本生態学会