| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T16-1

定点写真撮影による長期(1986−2009)の樹木フェノロジー調査

渡辺隆一(信州大・教育)

信州大学教育学部は長野県北部、志賀高原の標高1600mに自然教育研究施設をもっている。施設の前景は冷温帯と亜寒帯の境界部に相当し、ダケカンバの二次林とオオシラビソ・コメツガの針葉樹林からなる。施設内からこの前景を自動カメラ(広角35mm)で1986年6月から毎日1コマの定点撮影をおこなった。本調査地では最高最低温度計による観測を継続しており、年平均気温は1986年以降ほぼ一定の割合で温暖化の傾向を示した。

前景の主要な落葉樹はダケカンバであり、そのうち樹冠が明瞭な20個体を選び、その開葉日(開葉が始まり緑に見える)と黄葉日(樹冠の約半分が黄葉)とを連日写真を見比べることで確定した。1994年までの9年間を解析した結果では、開葉日と黄葉日の年変化はいずれも明瞭な傾向を示さず、温暖化の影響は認められなかった。年変異は開葉で10日、黄葉で7日と前者で大きかったが、個体差は逆に開葉が黄葉より大きかった。各事象の発現前の積算気温との関連を検討したが有意な関係は見出せなかった(志賀自然教育研究施設研究業績33号)。

いずれの年も平均的な開葉日、黄葉日を示した5個体につき2004年までの19年間で開葉日と黄葉日とを連日写真より確定し解析した。開葉日の年変化は当初は水平であったが、1998年より急に早まる傾向をみせた。黄葉日の年変化も1998年より遅れる傾向をみせ、いずれも温暖化の影響によるものと考えられた(同上43号)。しかし、ダケカンバの植物季節への影響がなぜ1998年より急に顕著になったのかは不明である。なお、2004年以降の傾向については解析中である。


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