| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T17-4

河口域における河川由来有機物の流入と底生動物による利用

坂巻 隆史(琉球大学)

河口域では、河川を通じて輸送されてきた粒状有機物の一部が保持され、生物に様々な形で利用されていると考えられる。しかし、水理環境は河口によって異なり、洗い流しや海域由来有機物との混合等を考えると、河川由来有機物の重要度は河口間で大きく異なると想像できる。また、河川由来有機物の河口における餌としての利用価値を評価するにあたっても、有機物の質等様々な因子を考慮する必要があろう。これまで河川由来有機物の河口における二次生産への寄与を調査した事例は多いが、その結論は決して一貫していない。このことは、河口生態系における河川由来有機物の役割が簡単に一般化できるものではないことを示唆している。

筆者は河口干潟を対象として、河川由来の粒状有機物の干潟底質における保持とベントス二次生産への寄与を、いくつかの潜在的影響因子を考慮しながら調査してきた。北米西海岸の7.0〜8000km2の流域面積を有する20河川の河口干潟において行った調査では、干潟堆積物中への河川由来有機物の寄与度が流域面積とおおむね正の関係を示した。しかし同時に、干潟堆積物中の有機物C/Nが高いケースでは、流域面積とは関係なく河川由来有機物の寄与が高いことが示された。比較的急勾配の小河川からは森林起源で分解性の低い有機物が流れ込んだためと推察された。また、この研究の中で行った干潟堆積物中有機物とマクロベントスの炭素安定同位体比の解析では、河川由来有機物の増加とともにそれへの食物源としての依存度を高める種とそうでない種が存在していることが示された。これは、生物の食物選択性の強さによって河川からの有機物の役割が大きく変化しうることを示す。

河川から流入する有機物の河口生態系における役割を理解するにあたり、その解釈に大きな影響を及ぼしうる因子は何であろうか。それについて、筆者の研究結果を題材に話題提供したい。


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