| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T24-2

日本産昆虫類のDNAバーコーディング:寄生蜂への応用を中心に

*三浦一芸(近中四農研・広島大), 前藤 薫(神戸大)

地球上の既知の生物の総種数は約175 万種である.このうち,昆虫類は約95万種と種数の大半を占めて多様性が高く,様々なグループをよく調べてみると,形態的に顕著な差異が認められる種,似ている種,かなり似ている種,非常によく似ていて区別が難しい種などがあって,形態的多様性が高いことがうかがえる.最近は生物多様性関連の研究や環境保全型農業の推進などで昆虫を同定する作業が増えてきた.種名は正しく知ることがまず必要で,かつ重要なことである.例えば,保全生物学の研究で絶滅危惧種の個体群動態に影響を与える天敵の同定は重要となってくる.また,種名が分からないと害虫の防除法や天敵の利用法が特定できない.しかし,昆虫の分類,特に寄生蜂を専門とする分類学者集団は急速に高齢化しており,先細りにあると言わざるを得ない.この傾向は世界的なものであり,形態形質だけに依存する現在の分類システムは早晩,機能不全に陥る恐れが大きい.では,迅速で正確な識別を誰が行うのだろうか?近年の分子生物学の発展により,DNA解析は比較的容易にできるようになった.この技術は「サルでもできる」と言われるぐらい簡単になりつつある.また,最近では,外注しても比較的安価かつ短時間でデータを得ることができる.これらの技術を利用して生物多様性研究に関わる昆虫研究者や応用昆虫学で広範な昆虫を同定する準専門分類学者(パラタクソノミスト)の同定支援ツールとしてDNAバーコーディングシステムが注目されてきた.本講演では,寄生蜂を中心に最近の日本の昆虫学へのDNAバーコーディングの利用について例を挙げてわかりやすく紹介したい.


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