| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T26-3

保全生物学的研究成果と法律:法律はどこまで科学を必要と しているのか

畠山武道(上智大・地球環境)

環境法は、後発の学問領域として、医学、化学、工学などの知見を取り入れ、法理論や法制度を発展させてきたが、環境法と生物学、生態学、獣医学などの関係は、緊密なものとはいえなかった。しかし、生物多様性条約の締結、生物多様性国家戦略の3度にわたる作成、近年の生物多様性基本法の制定などを契機に、保全生物学的知見を法制度や行政の運営に反映させようとする動きが高まっている。しかしながら、生物学と法律学との間には、(1)概念の厳密さ、学問的方法論の違い、(2)エコシステム・サービスの扱いの違い、(3)管理の境界(boundary)の違い、(4)一元的意思決定と多元的意思決定の対抗、(5)アダプティヴ(順応的)な管理への対応などをめぐり、容易に越境することのできない多数の障壁がある。

では、この障壁をどのように乗り越えるべきか。保全生物学者が少なく、生態学的知見の提供も十分でない現状では、法律学と生物学の対話が急速に進むとは考えにくい。そこで環境法は、保全生物学の手法やエコシステム・マネジメントの手法を早急に法制度に接合させるよりは、より長期的な視点から、(1)生物多様性保全義務の明示、(2)規制的手法と他の協議的手法の組み合わせ、(3)エコシステム・サービスの評価と法制度への組み入れ、(4)多数の省庁、自治体、専門家、利害関係者が参加する協議システムの構築、(5)不確実性に対応した予防原則の導入可能性の検討、(6)アダプティヴな管理に対応した新たな行政活動の統制と透明な手続の導入、などの課題の検討に取り組むべきである。


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