| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T26-4

学術研究と保護管理の実際:絶滅危惧種イトウの保護管理単位に基づく保全を例に

江戸謙顕(文化庁・記念物課)

国内における生物を保護するための法令は、種を単位として保護の対象とするものが多い。しかし、種を構成する各個体群の状況は異なることが普通であり、全ての個体群を一律に保護対象とすることは必ずしも妥当ではない。例えば、河川性魚類では水系により個体群サイズが異なるが、種を単位として一律に保護のための捕獲規制等をかけると、数が多く安定した個体群も資源としての利用が制限される。

河川性サケ科魚類イトウ Hucho perryi は絶滅危惧種として各種レッドリストに記載され、関係機関により法令に基づく希少種指定や捕獲規制等の検討が近年行われている。一方、イトウは遊魚の対象として人気が高く、一律の捕獲規制等には反対する動きも根強い。種レベル以下の保護管理単位で保護が図られれば、こうした問題は解決できるかもしれない。

演者らは、イトウの保護管理単位を設定するため、各個体群のサイズ及び遺伝的構造について調査した。個体群サイズについては、イトウの産卵床数から繁殖個体数を推定した(Edo et al. 2000)。国内分布域を網羅する22個体群の繁殖河川を調査した結果、繁殖個体数は全体で約7000個体と推定されたが、水系別にみると、繁殖個体数は10以下から1000以上のものまで大きくばらついた。遺伝的構造については、mtDNA(19個体群240個体)及びマイクロサテライトDNA(14個体群350個体)の解析を行った。その結果、ほぼ全ての個体群間で有意な遺伝的差異が検出され、近隣水系間(河口間10km以下)や水系内支流間における遺伝的分化も認められた。

以上より、イトウは個体群(水系又は支流)を保護管理単位として、個別に保全策を実施すべきであると考えられた。本講演では、各保護管理単位で順応的管理を実施し保護と利用の両立を図る、弾力的な保全制度の必要性についても論じたい。


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