| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T27-4

火とブナ科樹木の生態

佐野淳之(鳥取大・FSC森林)

ブナ科の樹木は、北半球の温帯を中心に多くの樹種が分布し、極相林の構成要素ともなっている。しかし、北アメリカ北東部、ロシア沿海地方、中国東北部、日本の中国地方などでは、山火事や火入れの跡地でブナ科コナラ属の樹種が二次林を形成していることが多い。ここでは、岡山県真庭市の蒜山地域で古くから行われている火入れ地および火入れ跡地の二次林での調査結果を元に、火に対応したブナ科樹木の性質について紹介する。

二次林がとくに歴史の古い中国地方で多いのは、里山では薪炭のための伐採、奥山ではたたら製鉄や木地師による伐採、古くから火入れが盛んだったことによる。蒜山地域における火入れは1000年以上前から行われていたと推定され、かつては田畑の肥料や家畜の餌、茅葺き屋根の材料として、ススキを中心とする草原を維持することが目的であった。しかし化学肥料や耕耘機の普及、化石燃料への転換などによって草原の必要性が減少したため、放置されて遷移が進行し徐々に森林化してきた。

毎年火入れを受けている場所では樹木が成長できず、見かけ上草原となっている場所が多い。樹木も火入れ後に萌芽によってシュートを伸ばしてくるが、毎年地上部は焼かれるため、地下部だけ肥大してくる。主な出現樹種は、コナラ、カシワ、ミズナラ、クヌギ、クリなどであり、ほとんどがブナ科コナラ属の樹木である。火入れ跡地では、初めはクリやカシワが多いが、遷移が進むにつれて成長の速いコナラが優占してくる。火入れ後に優占してくる樹種の特性としては、火に焼かれても地下部が生き残り翌年の春にすぐに萌芽してくる能力、近くに種子を提供する母樹があること、萌芽や種子が成長する環境条件(動物散布を含む)が整っていることなどが考えられる。


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