| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T29-4

ため池の水生植物の消失と市街化・護岸率の関係:形質に注目して

*赤坂宗光(国環研),樋口伸介(神戸大院・理),三橋弘宗(兵庫県博)

都市化に代表される過度の人為的な環境改変は,生物多様性の減少の大きな駆動因である.生物やその多様性の空間分布が,土地利用を含む景観構造や生育地自体の改変にどのように応答するかを理解することは,景観生態学の主要な課題であるとともに,生物の保全に貢献する.これまでは,主に個々の種や分類群を単位とした多様度といった分類学上の単位をベースとしたアプローチが多く採用されていたのに対し,近年,対象とする生物の形質に基づいた形質ベースのアプローチが盛んになっている.このアプローチにより,環境改変が生物の分布や多様性に影響を与えるメカニズムの深い理解が可能になり,また結果の一般化が比較的容易であるなどの利点がある.景観構造の改変に対する生物の応答を形質ベースで調べるには,対象とする生物を予めその形質に基づき,複数の機能群に区分し,機能群ごとに,景観構造との関係を検討するという方法が主に採用されてきた.しかし1)機能群の区分の妥当性が検証しにくい,2)対象生物の組成が変化した際に得られた結果が再現できるかが不明確である,3)機能群内の種は全て同質と扱うことになるため,群内の構成種の形質の違いを反映できない,など課題も多い.

本講演では,1992-97年と2006-09年の2時期に調査した兵庫県東播磨地方のため池の水生植物を対象とし,周辺の都市化という景観構造の改変と,堤体の護岸化という生育地自体の改変が,生育型,寿命,雌雄同株か否か,無性繁殖の有無といった形質のうち,どのような形質を介し水生植物を消失させるかを,統計モデルを用いて直接評価する.さらに得られた結果を元に,景観構造の変化に対する対象生物の応答と形質を関連づけるアプローチの発展性について議論する.


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