| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) A1-12

農業用水路に生息するイシガイ類群集の分布制限要因

*秋山吉寛(名大環境)

淡水二枚貝の1グループであるイシガイ類は、多様な生物の生存基盤として機能するため、生物多様性の豊かな水域の形成に貢献する。この機能の恩恵を受ける生物の種数は、イシガイ類の種数が増すほど増加する。水田地帯は生物多様性が豊かであり、国内に分布するイシガイ類の約6割が水田地帯の水路を利用する。イシガイ類の幼生は、宿主となる魚類へ寄生しなくては生存できないため、宿主の減少はイシガイ類の減少原因となる。近年の農業用水路におけるイシガイ類の減少は、収穫量増大に向けた圃場整備法や水路の管理法の変化が一因であると考えられ、その減少プロセスとして、以下の2点が挙げられる。1.イシガイ類生息場の非生物的環境の悪化。2.宿主の減少に伴うイシガイ類の減少。本研究は、イシガイ類を介して生物多様性を豊かにする水路構造と水路管理法を明らかにすることを目的として、イシガイ類の種数および宿主の分布と、人為的に改変・調整された水路環境との関係を調べた。

イシガイ類と水路環境との関係は、滋賀県内100地点で調査した。50mの区間で8種の環境因子とイシガイ類の種数を調べた。一方、宿主と水路環境との関係は、彦根市内を流れる一連の水路内20地点で行なった。20mの調査区間で4種の環境因子と魚類組成を調べた。

イシガイ類は農閑期に流水環境が維持され、土砂の堆積する幹線水路でしか発見されなかった。これらの条件がそろい、排水路としての役割により特化した水路ほど、多種のイシガイ類が見つかった。一方、主要なイシガイ類の宿主であるヨシノボリは幹線水路で水深6cmを超える水域でしか採集されなかった。これらの条件を満たした上で、さらに水深が深くなるとヨシノボリの密度は増加した。上記の条件を満たす水路を増やすことで、多種の貝と豊富な宿主の生息する水路を作れる可能性がある。この事を検証する為、今後野外実験を行なう必要がある。


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