| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) B1-01

準絶滅危惧種シデコブシの現状と今後

*石田清(弘前大・農), 鈴木節子(森林総研), 玉木一郎(森林文化アカデミー), 肥後睦輝(岐阜大・地域), 木佐貫博光(三重大・生資), 平山貴美子(京都府大・院・生命環境), 戸丸信弘(名大・院・生命農)

シデコブシは東海地方の湧水湿地に生育する準絶滅危惧種であり、1993~1995年に全集団を対象とした調査が行われている(日本シデコブシを守る会 1996)。広域調査はこれ以降行われておらず、現在も続く土地造成や自然遷移がシデコブシの存続にどのような影響を及ぼしているのかは定量的に評価されていない。そこで、分布域のなかから5地域(北勢地域、中濃地域:各務原市、東濃地域南部・北部:多治見市・中津川市、渥美半島)を選び、地域内の全集団(湧水湿地)について株数や環境などを2007~2009年に調査し、1990代以降の株数増減の推定と将来予測を行った。調査した187集団のうち、株数増減を推定できた79集団についてみると、減少率(10年あたりの株数減少率)は平均で約25%であり、前回調査時の推定値(環境庁2000)とほぼ同じであった。集団サイズ(株数)と減少率の関係は明瞭でなかったが、集団消失は約20株以下の小集団のみで起こっていた。土地造成などの人為的攪乱と保全管理は減少率に大きな影響を及ぼしていた。これらの影響を受けていない集団については、高木による被陰の有無が減少率に影響を及ぼしていた。さらに、集団サイズクラス(小・中・大集団)ごとに減少率のデータセットを作成し、将来の集団サイズ分布を予測するためのシミュレーションを行った。その結果、100年後には、いずれの地域についても株数、集団数両方ともに80%以上減少すると予測された。100年後の絶滅確率は低かったが(北勢地域のみ絶滅するケースが認められた)、このような集団数の減少は、集団間の遺伝的交流を減らして近交弱勢の増加や遺伝的多様性の減少をもたらし、地域個体群全体の脆弱性を高める危険性がある。


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