| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) B2-02

生息痕からみた韓国南部地域におけるユーラシアカワウソLutra lutraの長期推移

*キム・ヒョンジン(東農大),安藤元一(東農大),ハン・ソンヨン(韓国カワウソ研究センター),佐々木浩(筑紫女学園大),小川 博(東農大)

韓国に生息するユーラシアカワウソ Lutra lutra は1982年に同国の天然記念物に指定された。これまでカワウソの生息状況調査は各地において行われてきたが、長期モニタリング調査の例は少ない。本研究の目的は、開発による環境改変がカワウソの生息に与える影響を長期モニタリングを通じて探ることにある。調査は1982、1991-4および2010年の3回行われた。調査地は韓国南部の主要河川とリアス式海岸であり、各回の調査においてそれぞれ47、39および48地点を選び、平均500mずつ踏査して糞の分布密度を調べた。同時に聞き取りによる生息有無の情報を得た。糞密度と聞き取り情報をもとに、各調査地の生息密度に0~3のスコアを与えて時期ごとに比較したところ、スコアは1982年に河川1.3、海岸1.7であった。この値は1991-4年には1と1.4の値を示して減少傾向が見られたが、カワウソについての住民の認知度は増加していた。しかし2010年の調査では河川2.2、海岸1.6であり、むしろ増加傾向にあった。河川と海岸を比較すると1980-90年代には海岸における値が高かったが、2010年には河川の値が高くなった。とりわけ、2010年には大都市である釜山の海水浴場においてもカワウソの糞が見られるなど、人の往来が頻繁な場所もサインポストとして利用されていた。韓国南部の分布域については、大きな消長は見られなかった。以上から、1982年から1990年前半までも見られていた減少傾向が2010年までは続いてなかったこと、海岸よりも河川で生息状況が改善していること、安全な休み場が確保できれば都市域の近くにおいても本種の回復は可能であることが知られた。


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