| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) D2-08

DNAと形態からみたヒラタクワガタの進化的重要単位の多様性

五箇公一 *,所諭史,鈴木一隆(国立環境研),立田春樹(琉球大)

2005年、外来生物法制定時に、セイヨウオオマルハナバチと並び、第1次特定外来生物の候補として話題を呼んだ外国産クワガタムシは、当時、飼育ブームがピークを迎え、輸入量は年間100万匹を超えていた。我々はこれまでmtDNA変異解析に基づき、アジア地域広く分布するヒラタクワガタやオオクワガタの地理的分化を解析するとともに、交雑実験によって地理的分化集団間で雑種が生じることを示し、人為移送がもたらす進化的重要単位ESUの撹乱リスクを提唱してきた。現在、我々はmtDNAサンプルを追加するとともに、核DNAの変異を解析して、さらに、雄成虫の大顎形質における地理的分化を定量的に評価することにより、ヒラタクワガタの進化的重要単位および優先すべき保全対象地域(個体群)を分類学的観点からも再検証している。これまでに得られたデータから、評価する遺伝・表現形質の組み合わせによって、進化的重要単位は様々に区分されることが示されている。このことは、生物多様性評価に如何に多角的なアプローチが必要とされるかを指し示していると言っていい。近年、クワガタムシ飼育ブームは沈静化したかにみえるが、その輸入量は、相変わらず100万匹近くを推移している。日本列島への外来系統の侵入という問題だけでなく、乱獲や生息地破壊等がもたらす原産地個体群の減少など、日本のクワガタムシ産業はアジア全体のクワガタムシESUに対して深刻な影響を及ぼす。未解決かつ解決困難な問題としてクワガタムシは外来生物法の前に、相変わらず手つかずのまま横たわっている。


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