| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-03

コイ科魚類オイカワにおける免疫力ハンディキャップ仮説の検証

*高橋大輔(長野大・環ツー), 大原健一(岐阜県水産課), 安房田智司(中央水研), 三浦さおり(OIST)

多くの動物において、雄性ホルモンは雄の性的形質を発現させると同時に、免疫力を低下させることが知られている。免疫力ハンディキャップ仮説(Immunocompetence handicap hypothesis;以後ICHH)は、この雄性ホルモンの免疫抑制効果とハンディキャップの原理を組み合わせた性的二形の進化モデルである。ICHHは、雌を誘引する性的形質を発現させる雄は、そのような形質を発現させない雄と比べ病原菌感染のコスト(すなわちハンディキャップ)を背負うと仮定している。このハンディキャップゆえに、免疫能の高い雄しか性的形質を十分に発現できないのであれば、雌は雄性ホルモン依存の雄の性的形質に基づく配偶者選択により、雄の病原菌への抵抗性を正確に評価でき、高い免疫能を持つ雄と配偶することが可能となるだろう。これまでICHHの検証に用いられた材料は鳥類に偏っており、また仮説の妥当性について未だ統一された見解は得られていない。コイ科魚類オイカワでは性的二形がみられ、雄は婚姻色や追星などの性的形質を持つ。ICHHの検証のため、本種において雌の配偶者選択性を調べ、また魚類特有の雄性ホルモンである11-ケトテストステロン(KT)と雄の性的形質および免疫能との関連性について検討した。配偶者選択実験において、雌は婚姻色の面積が広い雄を好むことが明らかとなった。KT投与実験では、KT非投与雄よりもKT投与雄の方が婚姻色を含め性的形質の発現が顕著で、また溶菌作用を持つリゾチウムの腎臓中濃度が低かった。これらの結果から、KTは雄の性的形質の発現を促すと同時に、免疫能の一部を低下させると思われた。そのため、雄の婚姻色に基づく配偶者選択は、雌が免疫能の高い雄を正確に選び出すことを可能とするだろう。本研究は、魚類においてICHHが成り立つことを強く示唆する。


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