| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E2-08

社会性アブラムシの防衛行動:親と子でゴールを守る

*植松圭吾,柴尾晴信,嶋田正和(東大院・総合文化)

社会性昆虫のコロニーでは、各個体がそれぞれの役割にしたがい適応的な行動を示す。コロニー内における空間分布はその一つであり、各個体が役割に従って非ランダム分布を示し、空間的に編成された集団を構成することが知られている。今回は、植物のゴール(虫こぶ)を形成する社会性アブラムシについて、成虫と幼虫という2種類の防衛個体を持つ種のゴール内の空間分布を調べ、空間的編成が行なわれているかを検証した。

イスノキにゴールを形成するヨシノミヤアブラムシでは、無翅成虫が繁殖終了後も長く生存し、敵に付着して動きを止めるという自己犠牲的な防衛を行う。加えて、若齢幼虫も口針を敵に突き刺すことにより防衛を行う。このような、繁殖終了後の成虫と生まれたばかりの幼虫が同時期に防衛を担う社会システムは非常に珍しい。一方で、有翅成虫およびその幼虫は防衛を行わず繁殖を担っている。野外の裂開ゴールを3つの区域に分け、齢期別の割合を調べたところ、無翅成虫および若齢幼虫は外敵の侵入口であるゴール裂開部周辺の区域に多く分布していた。さらに、実験室内においてゴールに人工的に穴を開け、空間的再編成が見られるかを調べたところ、無翅成虫および若齢幼虫は開けた穴の方向へ移動するのに対し、防衛を行わない有翅成虫およびその幼虫は、穴から遠ざかることが分かった。これらの結果から、各個体がゴールの裂開という環境刺激に対して、それぞれの持つ防衛・繁殖の役割に応じてダイナミックに移動することにより、空間的編成を達成することが示唆された。


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