| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) F1-09

花崗岩渓流における底生動物の特性:群集構成とトゲマダラカゲロウ属の体斑紋

*山中信彦,加賀谷隆(東大院・農・森林動物)

東アジアは火山帯が多く,流域地質や河床が花崗岩である渓流が少なくない。流域地質は,河川の水質,流量変動パターン,河川地形や河床の特性などを介して河川生物に影響を与えると考えられるが,流域地質として花崗岩帯が優占する渓流(花崗岩渓流)の特性が河川生物に与える影響についての実証的な研究はほとんどない。演者らは,花崗岩渓流の河床に占める砂の割合の大きさに着目し,花崗岩渓流における瀬の底生動物群集の特性について以下の仮説を立てた。(1)出水時に河床の表面を移動する掃流砂の石面付着物に対する研磨作用が大きく,石面付着物が発達しやすい緩流域を好む石面付着物食者の生息数は少ない。(2)礫間を砂が埋めるはまり石の割合が大きく,生息場の安定性の高さにより礫面に生息する浮遊有機物食者の生息数は多い。関東近辺の,花崗岩帯,堆積岩帯,火山岩帯がそれぞれ優占する20地点で調査を行ったところ,(1)はコカゲロウ科とヒラタカゲロウ科について,(2)はシマトビケラ科について支持する結果が得られた。

花崗岩の優占する河床は,礫が白黒斑であり,白砂が多いという特性がある。底生動物は,この色彩特性に対し,捕食被食関係を通した応答を示す可能性がある。体背面の斑紋に大きな種内変異を示すオオマダラカゲロウ幼虫について,様々な地質に由来する砂礫の河床を持つ18地点で採集した成熟個体の体背面の32部位における明度を測定し,クラスター分析により斑紋パターンを6タイプに分類した。その結果,花崗岩優占河床においては,他の河床に比べ,地色が明るく斑紋が明瞭なタイプの個体の割合が大きかった。斑紋パターンは同一地点の個体ほど類似する傾向が認められたことから,斑紋の決定には表現型の可塑性だけでなく遺伝的要因の存在が示唆される。


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