| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) H1-08

飛翔能力の退化は種多様性の増加をもたらすか―ヒラタシデムシ亜科を例に―

*池田紘士(森林総研), 西川正明(海老名市),曽田貞滋(京大・理)

昆虫は非常に種多様性が高く、これまでに100万種近くが知られている。昆虫の進化史における重要なイベントの一つに、約4億年前に生じた飛翔能力の獲得があげられる。これにより、様々な地域、ハビタットへの分布拡大が可能になった。飛翔能力の獲得は、昆虫の初期進化における種多様性の増加に大きく貢献したと考えられている。

しかし、飛翔器官の形成及び維持には多くのエネルギーが消費されるため、様々な分類群で退化が生じている。飛翔能力の退化は分散能力を低下させるため、退化した種では個体群間の分化が生じやすい。この個体群間の分化は、地理的隔離による種分化を促進しうるため、飛翔能力が退化した系統の方が異所的種分化は生じやすいと予想される。昆虫の多くの分類群で退化していることから、退化は種多様性を増加させる主要因の一つである可能性がある。

我々が研究対象としてきたヒラタシデムシ亜科においては、食性進化に伴って飛翔能力が退化したことが、これまでの研究によって明らかにされている。本研究では、飛翔能力の退化が地理的分化をもたらすか、さらにこれによる異所的分化によって種多様性の増加がもたらされるかを、ヒラタシデムシ亜科を用いて検証した。日本の各地から8種を採集して遺伝子解析を行った結果、飛翔筋の無い種の方が個体群間変異は大きく、地理的個体群間で遺伝的に分化していることが明らかにされた。また、ヒラタシデムシ亜科全体の系統樹を用いて種分化率を比較したところ、飛翔筋の退化後の方が種分化率は高いことが明らかになった。飛ぶことによって様々な地域、ハビタットに分布を広げて定着したのちの、比較的最近の昆虫の進化史においては、飛翔能力の退化が種多様性増加の主要因の一つとなっているかもしれない。


日本生態学会