| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) H2-09

非対称な密度依存と亜寒帯林の多種共存

*中河嘉明(筑波大院), 横沢正幸(農環研), 原登志彦(北大)

種の共存において種間競争は重要である。また、個体の空間分布は植物種間の競争関係を特徴づけているといわれる。そのため、「個体の同種集中分布が種の共存をもたらす」という説が提案されてきた。我々は、この仮説を検証するために、大雪山の3種(トドマツ、エゾマツ、アカエゾマツ)が共存する極相林の毎木データを基に成木(>1cm DBH)個体の生長モデルのパラメータをベイズ推定し、成木1個体あたりが近隣個体から受ける個体間競争の強さ(CW)を種ごとに調べた。さらに、この時のCWと、空間分布がランダムな時のCWを比較した。

その結果、トドマツでは同種から受けるCWが最も大きかった。これは同種で集中分布していることと、トドマツ個体が同種個体からの負の影響を受けやすいことに因る。一方、エゾマツは、トドマツから受けるCWが最も大きかった。これは、エゾマツ個体の周囲にトドマツ個体の集中分布が形成されていることに因る。これらの結果は、成木の空間分布が、全てではないものの、種間競争に影響与えていることを示す。また、同種集中分布だけでなく異種間集中分布の重要性も指摘する。

しかし、この研究ではアカエゾマツが受けるCWを検出することができなかった。これは、アカエゾマツが成木になる前、すなわち実生(≦1cm DBH)時に、局所密度の高い場所の個体は負の相互作用により死滅し、成木では相互作用していないためと考えられる。最近、Comita et al. (2010)によって、実生が受ける個体間相互作用は、同種間で大きく異種間ではほとんど無く、そのことが熱帯の種の共存や豊富さに影響を与えているという報告がなされている。以上を考慮し、亜寒帯(大雪山)におけるそれぞれ種の実生時の負の相互作用の強さのパターンを調べた。本発表ではその分析結果について発表を行う。


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