| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-173

ヤミサラグモ類の交尾器形態の多様性と進化

*馬場友希 (農環研), 井原 庸(広島県環境保健協会), 吉武 啓(農環研), 吉松慎一(農環研)

ヤミサラグモ属(Arcuphantes)は森林性の2-3mmのクモで、その移動分散能力の低さを反映して著しい交尾器形態の地理的分化がみられる。その交尾器の特徴として、メスは体に対して不釣り合いに巨大な突起状の交尾器を持ち、一方、オスの交尾器はメスの交尾器を挟む構造をしており、雌雄の交尾器の接触部位の形状には厳密な「錠と鍵」の関係が成り立つ。そのためオスの交尾器形態は、メスの交尾器形態に応じて協調的に地理的分化する傾向があり、交尾器形態が異なる側所的集団間では生殖隔離が成り立つと考えられる。このように、本グループは交尾器の地理的分化が種の多様化に果たす役割を調べる上で興味深い材料であるが、その進化的背景は不明である。そこで、本研究はヤミサラグモ類における交尾器分化の進化的背景を明らかにするため、分子系統解析と交尾器の形態解析を行うことにより、交尾器形態の地理的分化プロセスの解明を試みた。まず交尾器形態の進化パターンを把握するため、九州から中部地方にかけての約30種類のヤミサラグモ類を対象にmtDNAを用いた分子系統解析を行い、種間における系統と交尾器形態との対応関係を明らかにした。次に、より詳細な地理的分化の仕組みを明らかにするため、交尾器形態の分化パターンがよく把握されているトクシマヤミサラグモ種群を対象に、多変量解析により各集団の交尾器形態を定量化し、集団間における形態差と遺伝的分化度、さらに地理的要因との関係を解析することで、交尾器分化に関わる要因の特定を行った。これらの結果を基に、ヤミサラグモ類において想定されうる交尾器進化のシナリオについて議論する。


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