| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-249

マークオサムシ雄交尾器の刺状片の機能

*奥崎穣(京大・理),高見泰興(神大・人間発達環境),土屋雄三,曽田貞滋(京大・理)

昆虫の交尾器は著しい多様化を遂げた器官である。興味深いことに、複数の昆虫分類群において、交尾中に雌を傷つける雄交尾器が確認されている。近年、このような交尾器の機能を性選択(配偶を巡る競争)から説明する試みが盛んである。オサムシ科オサムシ属は、雄交尾器、特に内袋に付属するクチクラ片が多様化した分類群であるが、その機能は一部の種群でしか明らかにされていない。本研究では、雄交尾器の内袋に1本の刺状片を持つトゲオサムシ種群に属するマークオサムシを材料として、その刺状片の機能の解明を目的とする。交尾中の雌雄を液体窒素で固定、解剖したところ、雄は刺状片を精包形成前に雌交尾器の開口部付近に1回だけ突き刺すことが明らかとなった。精包は、雌交尾器の奥に形成された。また1回の交尾を経験した雌を1ヶ月飼育した後に解剖したいところ、雌交尾器開口部付近に1 カ所だけ小さい傷(かさぶた)が確認された。交尾により死亡した雌はいなかった。以上の結果から、本種の雄交尾器の刺状片は、精包置換には直接関与しないと考えられる。さらに、刺状片由来の傷による再交尾抑制としての機能も弱いと推測される。また現時点では、刺状片を用いた性的刺激の効果は不明である。刺状片による再交尾抑制と性的刺激については、さらなる検証を行う予定である。まとめると、マークオサムシの刺状片は、他雄や雌に対する繁殖戦略上の器官ではなさそうである。むしろ、精包形成前に刺状片を膣壁に突き刺すことから、本種の刺状片の第一の機能は、精包を雌交尾器内の適切な位置に形成するための錨(anchor)ではないかと考えられる。繁殖において、交尾前後の他個体との相互作用よりも、交尾中に授精を正確に行うことが重要なのかもしれない。


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