| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-257

シロアリの女王特異的遺伝子発現と女王フェロモンの抑制効果

*山本結花, 渕側太郎, 松浦健二 (岡大院・環境)

アリ、ハチ、シロアリのような真社会性昆虫は、繁殖の分業によって特徴付けられる。つまり、女王は専ら繁殖を行い、一方、ワーカーは採餌・育仔の労働に従事し、自ら繁殖を行うことはない。この明確なカースト分業に対しては、環境要因と遺伝要因の両方が作用していることが明らかになっている。さらに、近年では繁殖分化に伴う遺伝子発現量の違いに関するトピックが脚光を浴びつつある。例えば、Reticulitermes flavipesにおいて、女王特異的に発現する遺伝子が報告されている(Scharf et al. 2005)。さらに、環境要因に関しては、ヤマトシロアリの女王分化抑制フェロモンの成分が2-メチル-1ブタノールとn-ブチルn-ブチレートの2つの揮発性物質であると明らかになっている(Matsuura et al. 2010)。これらにより、女王フェロモンが遺伝子発現レベルで与える効果について検証することが可能となった。

本研究では、まず、ヤマトシロアリを用いて女王を除去したコロニーで新たな女王が分化する状況を作った。その後、女王特異的に発現するビテロジェニンI, II遺伝子のmRNA発現量をリアルタイムPCR法により、経時的に測定した。このとき、同時に、女王分化抑制フェロモンを与える処理区を設け、それが遺伝子発現量にどのような影響を与えるのか調べた。その結果、女王フェロモンへの暴露区ではコントロール区に比較して、新女王分化が抑えられていただけではなく、ビテロジェニンI, II遺伝子の発現量が低かった。また、ビテロジェニンI, IIの発現量は女王への分化後に増加していた。よって、女王フェロモンはビテロジェニンI, IIの発現を直接抑制するものではなく、女王分化抑制の結果として遺伝子発現量の減少が引き起こされたと解釈できる。本実験は、女王フェロモンが個体の遺伝子発現に及ぼす影響を検証した初めての研究である。


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