| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-293

小笠原諸島に生息する絶滅危惧種アカガシラカラスバトの保全遺伝学的研究

安藤温子*(京大院・農),小川裕子(多摩動物公園),兼子伸吾(京大院・農),高野肇(森林総合研究所),鈴木創,堀越和夫(小笠原自然文化研究所),井鷺裕司(京大院・農)

小笠原諸島に生息する固有亜種アカガシラカラスバトColumba janthina nitensは、個体数が少なく生息地も限定的であることから、絶滅危惧種ⅠA類に指定されている。ミトコンドリアDNAを用いた先行研究では、他の亜種とは遺伝的に異なっており、保全上重要な系統であることが示されている (Seki et al. 2007)。また近年、小笠原群島内の島間を個体が頻繁に移動することが確認され、各島を別々の保全単位とみなしてきた従来の認識を転換する必要が生じている。本研究では、アカガシラカラスバトの遺伝的多様性と集団遺伝構造を評価し、長期的保全に向けた提言を行うため、ミトコンドリアDNAコントロール領域の塩基配列及びマイクロサテライトマーカーを用いた遺伝解析を行った。

解析の結果、アカガシラカラスバトの遺伝的多様性は、基亜種カラスバトと比較して、非常に低い状態にあることが明らかになった。野生集団は飼育集団よりも高い遺伝的多様性を維持しており、火山列島の集団の方が、小笠原群島の集団よりも遺伝的多様性がやや高い傾向にあった。集団間の遺伝的分化の程度は弱く、小笠原群島、火山列島の集団間に、個体の移動に伴う遺伝子流動が生じている可能性が示唆された。

アカガシラカラスバトを長期的に保全するためには、野生集団の遺伝的多様性を可能な限り維持することが重要である。また、小笠原群島と火山列島を含めた広域な生息環境を考慮し、保全策を検討する必要がある。生息地外において遺伝的多様性を保全するため、将来的には飼育集団への個体の導入を検討することが望まれる。


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