| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-008

ネズミモチのホソガ科リーフマイナーPhyllocnistis sp.の生態と寄主植物の防御特性

*箕浦哲明(名大・農),綾部慈子,松下泰幸,肘井直樹(名大院・生命農)

リーフマイナー(潜葉虫)の幼虫は1枚の葉内で過ごすため、メス成虫の適応度を上げるためには、幼虫にとって好適な葉を選択し産卵することが重要となる。ホソガ科(Gracillariidae)のリーフマイナーPhyllocnistis sp.(以下、ホソガ)は、ネズミモチLigustrum japonicumの‘遅れ芽’由来の新葉(以下、遅れ芽葉)を好んで利用する。このため、ホソガの産卵場所としての葉選択には、展開時期ごとの葉の特性が影響している可能性がある。本研究では、ホソガの基本生態とともに、展開時期が異なるネズミモチ葉の物理的・化学的防御レベルを調査し、それらの産卵場所選択への影響を検討した。

ホソガの基本生態として、発生消長と葉の利用部位(表・裏)、室内飼育下での生育日数を調査した。次に、展開時期が異なる葉を用いて、葉の硬さと葉表・裏のクチクラ層の厚さ、さらに、モクセイ科(Oleaceae)植物に含まれるフェノール化合物のOleuropein含量をHPLCにより測定し、それぞれを比較した。

その結果、ホソガには、各時期に展開している最も新しい葉を選択的に利用する傾向がみられた。また、6月以降、遅れ芽葉が展開し始めると、それまでの葉裏だけでなく、葉表も利用するようになり、マイン数は著しく増加した。生育期間については、1世代に約2週間を要することがわかった。クチクラ層の厚さでは、表については遅れ芽葉の方が薄かったが、裏では差がなかった。葉の硬さについては、遅れ芽葉は4月展開葉よりも柔らかかった。一方、Oleuropein含量は、遅れ芽葉の方が4月展開葉よりも低かった。これらのことから、遅れ芽葉における葉表のクチクラ層の薄さが産卵場所選択の幅を拡げたこと、加えて、葉の柔らかさとOleuropein含量の低さが、ホソガの遅れ芽由来の新葉への選択的産卵を誘導したことが示唆された。


日本生態学会