| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-013

標高傾度に沿ったヤマホタルブクロの花サイズ変異と遺伝子流動

*長野祐介,北沢知明,市野隆雄(信州大・理・生物)

ヤマホタルブクロCampanula punctata var. hondoensisは中部山岳域を中心とした低地~高地に分布する多年草である。花粉媒介は主にマルハナバチ類に依存しており、長野県の乗鞍地域では幅広い標高帯に分布している。予備観察において高標高地のヤマホタルブクロは低地に分布する集団よりも小さな花冠を持っていることが観察された。また、乗鞍地域におけるマルハナバチの種組成は標高によって異なり、高標高地ほど小型の種が優占していることが知られている。本研究では、ヤマホタルブクロにおける花サイズの変異を検出し、高標高地において送粉者を介した花形質の小型化を引き起こすような淘汰が生じたかを検証することを目的とする。

調査は乗鞍地域の6地点(標高800、900、1500、1650、1900、2200m)で行なった。各地点で4つの花形質(花冠長、花柱長、花冠幅、花冠口幅)及び、栄養器官形質(葉長、葉幅、草丈)の計測を行った。その結果、花形質では花冠幅を除いて、標高間で有意なサイズの変異が認められ、2200m地点を除いて標高が上がるにつれて小さくなっていくことが示された。栄養器官形質においても標高ごとの有意な変異が認められたが、花形質の変異との対応性は認められなかった。また、並行して行なった送粉者相の調査によって、ヤマホタルブクロの送粉者相(マルハナバチ類)は標高によって変化し、標高が上がるにつれ優占種が小型種へと置き換わっていくことが示された。これらのことから、標高によって異なる送粉者サイズに適応した結果、標高間におけるヤマホタルブクロの花サイズの変異が生じている可能性が示唆された。

さらに、マイクロサテライトマーカーを用いた解析によって、ヤマホタルブクロにおける標高間の遺伝子流動の評価を行い、標高という要因による植物の形態的、遺伝的分化について考察した。


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