| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-016

ツキノワグマの活動量はtemporalに変動する ― 堅果結実量が異なる年次間の共通点と相違点 ―

*小坂井千夏(農工大・連大),山崎晃司(茨城自然博),根本唯(自然研),中島亜美,小池伸介,梶光一(農工大),阿部真,正木隆(森林総研)

日本におけるツキノワグマ(Ursus thibetanus)の分布は、多くの地域でブナ科樹木が優占する冷温帯落葉広葉樹林の分布と一致している。ツキノワグマは冬眠準備のために秋期に体重増加、脂肪蓄積を行わなければならないが、そのための主な食物がブナ科樹木の生産する堅果類である。堅果の不作年にはツキノワグマが通常の生息地外の人間の生活空間にまで侵入・出没する問題が発生するが、堅果類の生産性(豊凶)が、具体的にどのようにツキノワグマの行動を変化させるのかについては明らかでない。本研究では、行動の中でも、採食などの活動にどのくらいの時間を費やしていたのかと言う「活動時間配分(以下、活動量)」に注目し、堅果類の結実豊凶がどのように影響するのかを明らかにした。

栃木県、群馬県にまたがる足尾・日光山地で2003年~2009年に15頭(オス7,メス8)のツキノワグマにGPS首輪を装着して追跡した。活動量はGPS首輪に内蔵される活動量センサーの値を用いて算出した。その結果、1年間のツキノワグマの日活動量は時間の経過とともに非線形に変動することが分かった。こうした変動は、ツキノワグマの1年のライフサイクルを反映したものであると考えられた。また、8月下旬から10月頃は、堅果の不作・豊作年を問わず活動量が最も活発に上昇する時期であることが分かった。一方で10月以降は活動量が減少するが、その年の堅果の生産性あるいは性別によって減少レベルに差が認められ、その年の豊凶に応じて冬眠までの活動量配分を柔軟に変化させていると考えられた。


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